歌で想いを…

控え室前…廊下

「……………っ!」

ふと、恋が足を止めた。

「久しぶりだな。恋」

「………………兄貴」

「……ふぅ。
もう、仁にぃとは呼んでくれないのか」

「誰が呼ぶかよ。」


「お前は、相変わらずだな。」

「……仁さん

なんで、ここに?」

「……竜也か。

新風の顧問に聞いてないか?

今大会の審査委員長なんだよ。俺」

「そうだったんですか…

恋、知ってたのか?」

「あぁ、先生に事前に聞かされた。

そんなことより遅れるから…行くぞ。竜」

竜也の腕を掴み、歩きだそうとした恋に仁は声をかけた。

「また、あの下手くそな歌を歌うつもりか?」

「………」

「………っ!!

いい加減にしてください!!」

「……っ!竜!?」

「……っ!?」

竜也の言葉に驚いた2人は、目を丸くして竜也をみた

「あなたの言葉で…恋がどれほど傷ついたと思ってるんですか!?

恋が歌に対して本気になれなくなって……
部活をやめてしまうほど、傷ついて…

どれほど…っ!!……恋が苦しんだか…!!



貴方に恋の苦しみが分かりますか!?」

「……………」

「黙ってないでなにか言ったらどうですか!?」

「……竜。」

「……ハァ……ハァ」

「……竜

もう、いい。」

「………でもっ!!」

「……いいから」

「…………わかった」

それ以降、竜也は黙った。

「………兄貴。」

「…………ホント…なのか?」

「……あぁ。竜の言ったことは何一つ間違ってない。
兄貴の言葉を引きずって、あの大会で力が出せず…皆の努力を水の泡にした。

歌に対して、本気になれなくなって…皆に会わせる顔をなくした俺は…すぐに部活を辞めた。歌を歌うことすらしなくなったよ」

「…………………っ!」


「この大会のことを引き受けてからも…最初はあの頃のように歌えなかった。歌う楽しさを忘れていたから

でも今は…あの頃の俺じゃない。

兄貴の言葉で力が出せなくなるほどの、弱い人間じゃない。」

「……………」

「今の俺の実力を今日の大会で見せるから」

「…………れ、ん」

「だから、しっかり見てて欲しい」

「審査委員長として、しっかり見るのは当然だ。

私情を入れるつもりはないが…お前の兄貴としても今日の大会を見るつもりだよ。」

その言葉に満足したのか、恋たちは、会場に向かおうとした。


仁はそんな2人をみながら、恋を呼び止めた。

恋は、黙ったまま仁の方に体を向けた。

「……大会が終わったら、審査委員長控え室に来て欲しい。

話したいことがある。」

「今、ここじゃ話せない話?」

「…あぁ。」

そう言いながら、仁は自分の右目を手でかくした

「わかった。」

「恋!
俺も行く!」

「…いや、竜は来るな。
俺と二人で話したい話…だろ?」

「よく…わかったな」

「これでも兄貴の弟だからな

兄貴の癖くらい、見抜けるよ」

「……っ!」

「兄貴?」

「いや、なんでもない。

じゃあ…大会終了後、審査委員長控え室で」

仁は、口元に手をあてながら走り去っていった。

それを見送った2人は会場に足を運んだ。












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