それでも僕が憶えているから

わたしは無意識に自分の腕をさすった。鳥肌がたっていた。

あまりにも蒼ちゃんが不利な立場にあるような、いつか蒼ちゃんが乗っ取られてしまうような、そんな不安に襲われたから。

何も言うことができずにいると、ホタルはわたしをじっと見つめて口を開いた。


「お前は感情がそのまま顔に出るんだな」


……そんなこと言われたの、初めてだ。
他の人の前ではネガティブな感情を出さないようにしていたから。

いや、ちがう。人前だけじゃなく、自分ひとりでいるときも。


「残念だけど、お前の心配は取り越し苦労だぞ」

「え?」


ホタルを見ると、彼はまたスマホをいじりながら淡々と言った。


「お前が邪推してるようなことは起こらない。目的さえ果たせたら、僕はお望み通り消えてやるからな」


そうだった。ホタルは何か目的があってここにいるのだ。

だけど肝心の目的が何なのかまだ知らなかったことに気づき、「それって」と言いかけたところでインターホンが鳴った。
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