それでも僕が憶えているから

ホタルが椅子に座ったまま、近くの窓からそっと外をのぞいて舌打ちする。


「嫌いなのが来やがった」


次の瞬間、ぶつんっと電源をシャットダウンしたように彼のまぶたが降りた。

同時に左手で持っていたスマホが落下する。
床に落ちたスマホが椅子の足に当たり、その音と衝撃で、ばちっと再び目が開いた。


「……あれ? 真緒?」


え、嘘でしょ!
まさかのいきなり蒼ちゃん!


「なんで真緒がここに……ていうか俺、寝てた?」

「いや、えっと」


あわあわと足踏みして怪しさ満点のわたし。
冷や汗がぶわっと噴き出した。
ホタルのやつ、こんど会ったら野菜地獄に送ってやる!


「そ、そう、寝てたんだよ蒼ちゃん。チャイム押しても返事ないし、鍵が開けっ放しだから心配で、勝手に上がらせてもらったの」


我ながら嘘が下手すぎる。
かしげた蒼ちゃんの首の角度も、心なしか鋭角になっていく。

そこで再びインターホンが鳴った。
どこの誰だか知らないけど、救世主だ。
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