それでも僕が憶えているから

「お客さんかな」


ちょっとごめん、と手振りで伝えて蒼ちゃんがモニターの方に駆けていく。

わたしは息をつきながら、床に落ちたままのスマホを拾い上げた。

そのとき、見るともなしに画面がふいに目に入った。

ホタルが入力したのだろう、上部の検索窓にひとつのワードが残っている。

“水原香澄”
たしかこの名前って……。


「あっ!」


急に蒼ちゃんが叫び声を上げた。
びくっとして彼の方を向くと、背中ごしに見えるモニターに、ひとりの男性が映っている。


「凪兄ちゃん!?」

『お~、蒼か。久しぶりだな』


相手の声が終わるより先に、蒼ちゃんが玄関に飛び出していった。
わたしはそのすきに、スマホの表示画面を閉じてテーブルに置いた。
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