それでも僕が憶えているから
ほどなくして、軽快な話し声とともに蒼ちゃんが戻ってきた。
さっきの男性も一緒だ。
「あれ? お客さん来てたんだ」
テーブルの横にぽつんと立っているわたしに気づき、男性が目を丸くした。
20代半ばから後半くらいだろうか。
短い髪に、あごヒゲ。
背が高くて、肩幅が蒼ちゃんの1.5倍くらいあって、いかにも快活そうな雰囲気の人。
「こ、こんばんは」
「こんばんは」
「真緒、この人は三条凪さん。俺が東京にいたとき近所に住んでて、弟みたいに可愛がってもらったんだ」
凪さんの仕事はカメラマンであちこちを飛び回っていると、蒼ちゃんがどこか誇らしげに教えてくれた。
なるほど、やたら重そうな黒いショルダーバッグの中はカメラ機材らしい。
久しぶりの再会をジャマするのも悪いので、そのあとはすぐに蒼ちゃんの家を出た。
帰り道、自転車のバンドルにぶらさげた袋の中で、空になったタッパーが、かたかたとやさしい音を立てていた。