それでも僕が憶えているから
*
《2》
「真緒」
翌日の放課後。裏門から出て歩いていたところを呼び止められた。
ふり向くとそこには、コンクリートの塀のむこうから顔を出した坊主頭。
「あ、大和」
同じ学年の伊東大和だった。
わたしや千歳とは昨年クラスが一緒で、今年はたしか蒼ちゃんと同じクラスだ。
大和が塀の上に肘をついて言った。
「お前、最近花江と仲いいんだろ? 水泳部に入るようにお前からも言ってくんねぇかな」
頼むよ、と両手を合わせる大和の後ろから、ばしゃばしゃと水を掻く音が聞こえてきた。
塀のむこうはプールで、この時間帯は大和たち水泳部が使っている。
「うーん……たぶん、誰が言っても同じ返事だと思うけど」
「それでもいいから言っといてくれよ。あっ、あとさ」
「何?」
「お前から見て、千歳ってやっぱ花江のこと好きだと思う?」
真っ黒に日焼けした大和の頬に、赤が混じった。
さては大和、こっちが本題だな。
「自分で聞きなよ」
わたしが意地悪に笑うと、大和はぴゅーっと逃げるように塀のむこうに引っ込んだ。