それでも僕が憶えているから



《2》


「真緒」


翌日の放課後。裏門から出て歩いていたところを呼び止められた。

ふり向くとそこには、コンクリートの塀のむこうから顔を出した坊主頭。


「あ、大和」


同じ学年の伊東大和だった。
わたしや千歳とは昨年クラスが一緒で、今年はたしか蒼ちゃんと同じクラスだ。

大和が塀の上に肘をついて言った。


「お前、最近花江と仲いいんだろ? 水泳部に入るようにお前からも言ってくんねぇかな」


頼むよ、と両手を合わせる大和の後ろから、ばしゃばしゃと水を掻く音が聞こえてきた。
塀のむこうはプールで、この時間帯は大和たち水泳部が使っている。


「うーん……たぶん、誰が言っても同じ返事だと思うけど」

「それでもいいから言っといてくれよ。あっ、あとさ」

「何?」

「お前から見て、千歳ってやっぱ花江のこと好きだと思う?」


真っ黒に日焼けした大和の頬に、赤が混じった。
さては大和、こっちが本題だな。


「自分で聞きなよ」


わたしが意地悪に笑うと、大和はぴゅーっと逃げるように塀のむこうに引っ込んだ。


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