それでも僕が憶えているから
「僕も一応ネットは見た。時間のムダだった。今わかってること以上の情報はなかったからな」
スマホの画面を指で弾いて、淡々としゃべるホタル。
その瞳がこちらを向いた。
「お前、あの名前が何なのか知りたいか?」
「え、教えてくれるの?」
「こそこそ嗅ぎ回られるのは、うっとうしい」
その言い方にはイラっとしたものの、先を聞きたいから言い返すのは我慢した。
ホタルは椅子を左右に回しながら、履歴書でも読むような口調で話し始めた。
「水原香澄。東京都出身。独身。享年29歳――死因は自殺」
ぴたっとホタルの椅子が止まる。
一瞬、わたしの息も止まった。
「蒼の産みの母親だ」
……なんとなく、そんな気はしていた。
手紙の古さからいっても、蒼ちゃんの実のお母さんじゃないかって。
でも、すでに亡くなっていたんだ。
しかも自殺。