それでも僕が憶えているから
*
《3》
翌日。一学期の終業式。
校長先生の長い話を聞きながら、わたしは別のクラスの列にさりげなく目をやった。
人垣のむこうに見える蒼ちゃん。
その左頬が腫れていないことを、遠目にだけど確認できて安心した。
わたしがホタルと関わる道を選んだのは、蒼ちゃんを守るため。
なのに昨夜は、わたし自身が一瞬でも蒼ちゃんのことを忘れるなんて、あってはいけないことだった。
これからはもっと気をつけなくちゃ。
そんな感じで朝から脳内反省会をしていたせいだろう。
千歳の様子がおかしいことに気づいたのは、終業式を終え、帰る段階になってようやくだった。
「千歳、帰らないの?」
また2学期ねー、と言いながらクラスメイトたちが教室を出る中、席から立ち上がろうともしない千歳。
最近のトレードマークだったポニーテールも、心なしか元気なく見える。
どうしたんだろう、昨日はあんなに幸せそうに蒼ちゃんと話していたのに。