それでも僕が憶えているから

「……真緒」


真っ赤な瞳が、わたしを見上げた。
けれど続きの言葉が出てこない。

しばらく待っても黙ったままだったので、これはただ事ではないと思い、こちらから切り出した。


「もしかして、蒼ちゃんと何かあった?」


直感でたずねたと同時に、千歳の目から涙が決壊した。

まだ教室に残っていた数人の生徒たちの視線が集まる。
わたしは千歳をなだめながら、ひと気の少ない階段下に移動した。

ひっく、ひっく、としゃくり上げながら、彼女が話してくれた経緯はこうだった。


――やはりと言うべきか、千歳は蒼ちゃんに恋をしていた。

わたしと一緒にお見舞いに行き、初めて彼と話したあの日から。

彼女らしいスピーディな恋。
でも、蒼ちゃんの方はあくまでも友達だった。

その関係に突如変化が表れたのは、昨日の放課後のこと。

蒼ちゃんに誘われて中庭に行った千歳は、そこである悩みを打ち明けられたらしい。
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