それでも僕が憶えているから
「嬉しかったの。今までは蒼ちゃんって、なんとなく一線引いてるような感じがあったから。
わたしに相談してくれるなんて初めてで、すごく嬉しくて」
――だから、千歳は蒼ちゃんを助けることにした。
彼の悩みを解消する、“あるもの”をその場で渡した。
交換条件として、デートの誘いを持ち掛けて。
蒼ちゃんは二つ返事でデートを約束し、千歳を有頂天にさせたのだった。
「なのに、今朝になってメッセージを送ったら、そんな約束なんか知らないって感じの返事がきて……」
ハンカチをぐしゃぐしゃに握りしめながら、千歳が泣き崩れた。
昨日の放課後の中庭といえば、わたしが偶然見たときだ。
てっきり付き合っているのかと勘違いしたほど、いつになく親密そうだったあのときの蒼ちゃん。
嫌な予感がする。
それはもう、ほとんど確信に近かった。
声が震えないよう必死にこらえ、わたしはたずねた。
「千歳。蒼ちゃんに渡したものって何?」