それでも僕が憶えているから

千歳が顔を伏せたまま、思っていた通りの答えを口にした。


「……お金。お母さんから塾の月謝を預かって、封筒で持ち歩いてたの」


 * * *


あいつにも少しはまともな部分があるのかもしれない――なんて、甘いことを考え始めていたわたしがバカだったんだ。


「どういうことなの、説明してよ!」


駐輪場に怒声が響く。
L字型の病棟に囲まれたこの場所は、思った以上にわたしの声を反響させた。

あのあと、バス停まで千歳を送り届けたわたしは、その足でおばさんが入院している病院にやって来た。
駐輪場で待ち伏せをすれば、きっと彼に会えると踏んだから。

予想通りすぐに蒼ちゃんが自転車で現れ、わたしを見つけた瞬間、空気を察しただろうホタルが、蒼ちゃんを押しのけて表に出てきた。


「あんた昨日、あのお金は蒼ちゃんのお年玉だって言ったよね? 本当は千歳が、お母さんから預かってたお金なのに!」

「どっちでも一緒だろ。あの女が自分の意志でよこしたんだから」

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