それでも僕が憶えているから
だけどきっと、わたしを巻きこんではいけないと思い、今まで話題を避けていたんだろう。
わたしがおばさんを巻きこみたくなくて、ずっと黙っていたように。
「……あんなやつ、大っ嫌い」
仲間を見つけた安堵感が、甘えにも気持ちを呼び起こした。
わたしは拗ねた声で、おばさんに向けて鬱積を吐き出していく。
「大嫌い。大嫌い! どうしてあんなやつ生まれたの!?」
「必要だったからよ」
いつになく強く言い切った口調は、だけど咎めるわけではなく、静かな温もりに満ちていた。
わたしは自分が癇癪を起こしていたことに気づき、口をつぐんだ。
「蒼が養子だということは、もう聞いた?」
唐突な質問に、少しとまどいながらうなずく。
おばさんが肩を寄せるように、隣に来た。
「わたしたち夫婦が蒼を迎え入れたのは、あの子が8歳のとき。その頃にはすでに、ホタルたちがいたの」
「……ホタル“たち”?」
「主治医の話では4人の人格がいたって。蒼にとっては、その全員が必要な存在だった」