それでも僕が憶えているから

『……やっぱり、あんたには、普通の人間の心がないんだね』


どうしてあんな、ひどいことを言ってしまったんだろう。


『傷つけられた方の気持ちなんて、わからないんでしょ!?』


わかっていなかったのはわたしの方だ。


『大嫌い。大嫌い! どうしてあんなやつ生まれたの!?』


本人の前じゃないとはいえ、言ってはいけないことを言ってしまった。

どうして生まれたの、なんて。
わたし自身もずっと自問自答して苦しんできた言葉だったのに――。


わたしは勢いよく立ち上がり、走り出した。

もう一度ホタルと話し合おう。
たとえ理解し合えなくても、このままじゃダメだ。


そう思いながら走り、駐輪場に出たところに、彼がいた。

こちら側に背を向けて、ポールをつなぐチェーンの上に座っていた。


「……蒼ちゃん?」


うしろ姿では判別できないのでそう呼ぶと、振り返った不機嫌な顔が、またプイッとあちらを向いた。

その仕草で、ああホタルだ、とわたしは理解する。


「聞いて。ホタル」


呼びかけでも返事はなかった。
予想はしていたから、そのまま先を続けた。


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