それでも僕が憶えているから
「さっきはあんなこと言って、ごめん。何も知らないくせに、ひどい言葉であんたを攻撃した。言い訳なんてできない。本当にごめんなさい」
「………」
「わたしのことはもう切り捨ててくれてもいい。
でも、千歳にはあやまって。お金もちゃんと返してほしいの」
「結局、蒼や千歳のためなんだろ。お前は」
初めて声が返ってきた。
全身にトゲをまとったような、痛々しいほど固い声。
「そうだよ」
「………」
「わたしがこんなこと言うのは、蒼ちゃんのため、千歳のため。……あんたのため」
ぴくっと肩が揺れた。
左手が、頼りなげにチェーンを握っている。
「あんたがわたしを切り捨てても、わたしはあんたのこと切り捨てない。
お父さんに会いたいんでしょう? 協力するって言ったじゃん。ホタル」
戸惑いが、逡巡が、彼の背中から伝わってくる。
わたしにはホタルの気持ちを完全に理解することなんてできないけれど。
今目の前にいるのは、自分と同じひとりの人だと思った。
この世界に確かに存在している、ホタルという名のひとりの人間だと。