それでも僕が憶えているから
わたしは彼のもとへと歩み寄り、肩に手を伸ばした。
「まずは千歳にあやまりに行こ。ね?」
「お前が勝手に決めんなっ」
少ししおらしくなったかと思えば、はねのける。
簡単には懐かない野良猫みたい。
「じゃあ、いつあやまりに行くのよ」
「知るか。僕は人にあやまったことなんか一度もないんだ」
「誇らしげに言うことじゃないでしょ……あっ!」
自転車に乗ったホタルが逃亡をはかった。
あっけにとられるような速さで、あっという間に見えなくなる。
何てやつだ、まったく。
とあきれつつも、わたしの心の中は、さっきまでよりずっと晴れやかだった。
* * *
「お泊り会なんて久しぶりだねー」
その日の夜。千歳のことが気がかりだったわたしは、彼女の家に泊まりに行った。
「ありがとね、真緒。心配してくれて」
「ううん」