それでも僕が憶えているから
少し落ち着いたのか、笑顔が戻ってきた千歳。
だけどまだまだ空元気なのは、わたしの目にも明らかにわかる。
そんな彼女とお菓子をテーブルに広げて、いろんな話をした。
ほとんどが他愛ないガールズトーク。
しだいに彼女の口から、ぽつぽつと“蒼ちゃん”という単語が出始めた。
「わたしね、今回のことは自分もかなり悪かったなって反省してるの。
蒼ちゃんに好かれたくて……ううん、ほんとは真緒よりリードしたくて、お金を渡しちゃったんだ」
「え、なんでそこで、わたし?」
思いがけず自分の名前が登場したので、びっくりした。
「だって真緒と蒼ちゃん、仲いいじゃん。他の人たちとは何かちがうよ。真緒の気持ちはどうなの?」
「どうもこうもないって。蒼ちゃんとは、そんなんじゃないし」
わたしにとって彼は友人であり、夜の海で助けてくれた恩人だ。
それに偶然秘密を知ってしまったから、一方的にわたしが蒼ちゃんを心配している、ただそれだけ。