それでも僕が憶えているから
けれど千歳に話すわけにはいかず、口をもごもごさせていると、「ねえ真緒」と彼女が意外なことを切り出した。
「もしかして蒼ちゃんって、何か複雑なこと抱えてるの?」
「えっ……」
「なんとなく感じたんだ。昨日の蒼ちゃん、いつもと全然違ったから」
「……ごめん。それは、わたしの口からは言えない」
やっぱり嘘が苦手なわたし。
下手に作り話をするよりは、こう答えるのが精いっぱいの誠意だと思った。
「でもこれだけは信じて。今回のことは蒼ちゃんに悪気があってのことじゃないの。
お金はわたしが責任を持って返してもらう。だから、これで蒼ちゃんと友達をやめるなんて――」
「大丈夫だよ。そんなつもりないから」
「千歳……ほんとに?」
「うん。なんかよくわかんないけど、蒼ちゃんにも事情があったんでしょ? 真緒が言うなら信じるよ」
千歳がどこかさっぱりしたような、彼女らしさの戻った笑顔で言った。
そのときだった。
――カタンッ、と窓の外で音がした。