それでも僕が憶えているから
この部屋は一階で路地に面しているから、人が通ったのかもしれない。
だけど音のした場所があまりに近かったので、わたしはそろりとカーテンを開いてみた。
窓の外側、アルミサッシに立てかけるように、茶色の封筒がそこにあった。
「あっ……」
もしかして。わたしと千歳は同時に顔を見合わせる。あわてて千歳が封筒を手に取り、中身を確認した。
大きく見開いた彼女の瞳に、みるみる涙がにじんでいく。その手に握られているのは2枚の一万円札だ。
いったい誰がこれを? なんて考えるまでもない。
『まずは千歳にあやまりに行こ。ね?』
『お前が勝手に決めんなっ』
あんなこと言っていたくせに……来てくれたんだ、ホタル。
きちんとあやまる方法を知らないから、こんな不器用なやり方で。
でもきっと、あいつなりの精いっぱいで……。