それでも僕が憶えているから
Chapter.3 儚い花
*
《1》
夏休みに入ったら、棚から牡丹餅が降ってきた。
「よーし、これで全部だ」
段ボールの積みあがった部屋を見渡して、凪さんが高らかに告げた。
わたしと蒼ちゃんは顔を見合わせ、疲労と達成感の入り混じった長い息をはく。
「やっと終わったあ~っ、もうクタクタ」
「俺も。腕がちぎれそう」
「ふたりともお疲れさん。ほんっと助かったよ」
おじぎをする凪さんの首元で、汗に濡れたタオルがはらりと揺れた。
「でも凪兄ちゃんらしいよなあ、退去日を忘れてたとか呑気すぎ」
蒼ちゃんがあきれたように笑いながら、すとんっとソファに腰をおろす。
遠慮のない慣れた仕草は、これまでに何度もこの部屋に来たことがある証だろう。
ここは東京。凪さんが普段暮らしているマンションだ。
なぜわたしたちがこんなところにいるのかと言うと、おとつい、凪さんから突然の依頼があったから。