それでも僕が憶えているから
Chapter.3 儚い花



《1》


夏休みに入ったら、棚から牡丹餅が降ってきた。



「よーし、これで全部だ」

段ボールの積みあがった部屋を見渡して、凪さんが高らかに告げた。
わたしと蒼ちゃんは顔を見合わせ、疲労と達成感の入り混じった長い息をはく。


「やっと終わったあ~っ、もうクタクタ」

「俺も。腕がちぎれそう」

「ふたりともお疲れさん。ほんっと助かったよ」


おじぎをする凪さんの首元で、汗に濡れたタオルがはらりと揺れた。


「でも凪兄ちゃんらしいよなあ、退去日を忘れてたとか呑気すぎ」


蒼ちゃんがあきれたように笑いながら、すとんっとソファに腰をおろす。
遠慮のない慣れた仕草は、これまでに何度もこの部屋に来たことがある証だろう。


ここは東京。凪さんが普段暮らしているマンションだ。

なぜわたしたちがこんなところにいるのかと言うと、おとつい、凪さんから突然の依頼があったから。
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