それでも僕が憶えているから
『実は、俺が倉庫代わりに借りてたボロアパートが近々解体するらしくてさ。
7月中に荷物を引き上げてくれって言われてたのに、すっかり忘れてたんだよな』
その時点ですでに7月29日。
退去日まで3日を切っていたのだから、凪さんのマイペースぶりはなかなかのものだ。
『頼む、蒼、真緒ちゃん。少しならバイト代も出すから手伝ってくんねえかな』
こうして7月最終日の今日。わたしたちは凪さんの運転する車で、朝から東京にやって来たのだった。
途中で昼休憩をはさみつつ、すべての荷物を移動し終えたのは昼2時過ぎ。
凪さんはこのあと不動産屋の手続きや、他にも用事があるらしく、
「3時間くらいで戻るよ。もしその間に蒼たちも出かけるなら、これ使って」
と合鍵を置いてマンションを出て行った。
「タフだなあ、凪さん」
駐車場を出て行く車を窓から見下ろしながら、わたしは感嘆の声を漏らした。
「カメラマンは体力勝負なんだってさ。ていうか真緒も座れば?」
蒼ちゃんがソファの半分を空け、突っ立ったままのわたしに言った。
床は足の踏み場もないような状態なので、お言葉に甘えて隣に座らせてもらう。