それでも僕が憶えているから
それがホタルになったとたん、なぜだろう、ぞっとするような妖しさを帯びる。
切れ長の目は、繊細な筆でスッと線を描いたように。
白い肌は、月が発光しているように。
他の誰とも似ていない特別な存在感。
ただそこにいるだけで目を奪われるのは、悔しいけど認めざるを得ない。
「ま、いいのは見た目だけで中身は性悪なんだけど」
「聞こえてるぞ」
心の中で悪口を言ったつもりが、しっかり声に出ていたらしい。
ホタルが舌打ちをして迫力のある睨みをきかせてきた。おお、怖っ。
「お前、いつもそんなことばっかり考えてるんだろ」
「か、考えてないよ」
「やっぱりお前なんかと組んだのは失敗だったか……」
「やだなあ、ほんの冗談だってば。あっ、ほら、入り口」
わたしは適当にごまかすと、昇降口の方にホタルの背中をぐいぐい押した。
校舎の中は人影がなく少しひんやりとしていた。
来客用の緑のスリッパを履いて廊下を進んだ。