それでも僕が憶えているから

それがホタルになったとたん、なぜだろう、ぞっとするような妖しさを帯びる。

切れ長の目は、繊細な筆でスッと線を描いたように。
白い肌は、月が発光しているように。

他の誰とも似ていない特別な存在感。
ただそこにいるだけで目を奪われるのは、悔しいけど認めざるを得ない。


「ま、いいのは見た目だけで中身は性悪なんだけど」

「聞こえてるぞ」


心の中で悪口を言ったつもりが、しっかり声に出ていたらしい。
ホタルが舌打ちをして迫力のある睨みをきかせてきた。おお、怖っ。


「お前、いつもそんなことばっかり考えてるんだろ」

「か、考えてないよ」

「やっぱりお前なんかと組んだのは失敗だったか……」

「やだなあ、ほんの冗談だってば。あっ、ほら、入り口」


わたしは適当にごまかすと、昇降口の方にホタルの背中をぐいぐい押した。

校舎の中は人影がなく少しひんやりとしていた。
来客用の緑のスリッパを履いて廊下を進んだ。
< 149 / 359 >

この作品をシェア

pagetop