それでも僕が憶えているから
気づけば見覚えのあるシャツの色が、わたしの目の前を覆っていた。
背中に感じるのは力強い腕の感触。
ホタルにすっぽりと体を包まれたわたしの足元を、野球ボールがころころと転がっていく。
……危なかった。もう少しでケガするところだった。
もしかして、ホタル、守ってくれたの?
混乱しながらもそれだけは理解していると、背中に感じる腕の力がふっと解けた。
「あ、ありが……」
「もうちょっと周りに注意しろ、バカ」
体を離したホタルが、シャツに付いた破片を左手で払いながら言い捨てる。
わたしは最後まで言えなかったお礼を、口の中でもごもごと噛み砕いた。
「今の音、何だ?」
職員室のドアが開き、中からひとりの男性が飛び出してきた。
そしてガラスの残骸が散乱した床を見て、顔をしかめる。
「うわっ、こりゃひどいな」
彼は舌打ちをすると、割れた窓から中庭に向かって「おーい、野球部」と大声を張り上げた。
ほどなくして坊主頭の男の子が数人、駆け寄ってきた。