それでも僕が憶えているから

「お前ら、校舎の近くでボールを使うなって言ってんだろ」

「すみません!」


野球部員たちはすぐさま謝罪したものの、心当たりがないのか、「やったの誰だよ」と小声で探り合っている。


「誰も何もねえ。ちゃっちゃと片付けろ」

「はい! すみませんでした」


部員たちが掃除用具を取りに走るのを見届けると、男性は一息ついて、こちらに向き直った。


「ケガなかったか?」

「はい、大丈夫です」


答えたわたしに、男性が安心したようにうなずいた。
そして、その視線がわたしの隣のホタルに向く。

男性の目が大きく見開かれたのは、それと同時だった。

まるでホタルの顔を――いや、蒼ちゃんの顔を知っているような反応だ。


「お前、この学校の生徒じゃないよな」


男性が言った。
ホタルが一歩前に出て、いつになく行儀のいい口調で答えた。


「水原香澄という卒業生について調べたくて来ました。平成10年のアルバムを見せていただけませんか?」

< 152 / 359 >

この作品をシェア

pagetop