それでも僕が憶えているから

男性が探るような目つきでホタルを凝視する。
それからしばらく沈黙したあと、意外なことを彼は告げた。


「またその卒アルか……どうなってんだよ」

「え?」

「せっかく来たとこ悪いけど、見せてやれねえんだ。ついこないだ盗まれたからな、平成10年のやつだけが」

「………」


水原香澄さんが卒業した年のアルバムだけが、盗まれた。
しかもこんなタイミングで。

それは単なる偶然なんだろうか、それとも……。

わたしは唾を飲みこみ、ホタルに目配せをした。
彼の方はこちらを見ず、何か考えている鋭い表情で前を向いたままだ。


「最近は個人情報を悪用する輩が多いだろ。卒アルの件もあって学校は警戒してる。だからここで調べても、たいした情報は入らえねえと思うよ」

「そうですか……」

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