それでも僕が憶えているから
わたしはそっと、こちらに背中を向けて立っている彼を見つめた。
ホタル。
今、何を考えてるの?
その細い後ろ姿が、雑踏に消えてしまいそうなほど孤独に見える。
それとも、こんな風に感じてしまうわたしが変なの?
部屋に到着すると、凪さんはまだ帰っていなかった。
ホタルはさっき蒼ちゃんがしていたのと同じように、ソファに座った。
「あいつに代わるぞ」
「うん……」
ゆっくりとまぶたが閉じていく。
ホタルが、帰っていく。
すう、と寝息のような呼吸が聞こえてきた。
かすかに上下する胸、白い頬、あどけなく開いた唇。
――この寝顔は、どちらのものなんだろう。
そんな疑問がふと浮かんで、自分自身にあきれた。
どちらのもの、なんて。
蒼ちゃんのものに決まっているのに……。
数秒の間をおいてまぶたが開いた。
「おはよ、蒼ちゃん」
「……あれ? もう夕方?」
「3時間くらい寝てたよ」
「まじで!?」