それでも僕が憶えているから
*
《2》
8月の空は、目に染みるほど濃く青い。
病室の窓から遠くに見える海が、銀紙を貼りつけたように光っている。
それをぼんやりとながめていたら、後ろから窺うような声がした。
「お花、もしかして枯れてる?」
「えっ……あ!」
ハッとして自分の手元に目を落とす。
水を入れ替えるために花瓶を持ったまま、ぼうっと突っ立っていたのだ。
「いえ、枯れてないです。水替えてきますね」
おばさんに笑顔を見せて、わたしはそそくさと病室を出た。
東京に行った日から3日。
気づけば今みたいに、意識があの日に飛んで呆けてしまう。
……しっかりしろ。
わたしの役目は、ホタルの目的が無事に果たされるよう手伝うこと。
そうして一日でも早く、蒼ちゃんの中からホタルに消えてもらうこと。
すべては蒼ちゃんを守るために、わたしはあいつと関わっているのだから。
それ以外よけいなことを考える必要はない。と自分に忠告しながら、花瓶の水を入れ替えた。