それでも僕が憶えているから
病室に戻ると、おばさんが心苦しそうに「いつもありがとうね」と言った。
わたしは首を横に振った。
「全然ですよ。たいしたことしてないですし」
「そんなことないわ」
おばさんの声に力がこもり、そこでようやく気づく。
ありがとうの言葉には、お見舞い以外のことも含まれているのだと。
わたしは窓際の棚に花瓶をそっと置き、ひらりと落ちた花びらを指先でつまんだ。
「真緒ちゃん、あれからホタルに会った?」
“あれ”というのは、以前わたしとホタルがケンカをしたときだろう。
こくりとうなずき、同時に親探しを手伝っていると伝えようかとも思ったけれど、やめておいた。
おばさんによけいな心配はかけたくない。
「もしもね、真緒ちゃんがホタルと関わることで負担があるなら無理しないでほしいの。本当ならこれは蒼自身や、わたしたち親が向き合わなくちゃいけない問題なのよ。真緒ちゃんに迷惑をかけるわけには――」
「大丈夫ですよ」
わたしは努めて明るい声で、おばさんの話を遮った。