それでも僕が憶えているから
そのとき、わたしのスマホが鳴った。
知らない番号に戸惑いつつも、退室してから電話に出る。
「はい」
『俺だ。川口。今電話いいか?』
名乗られた苗字を記憶から引っ張り出すまでもなく、そのフランクな口調ですぐに誰かわかった。
3日前、東京の高校で出会った川口先生だ。
蒼ちゃんの実のお母さんである、水原香澄さんの元同級生。
「はい、大丈夫です。先日はどうもありがとうございました」
『礼を言うのはまだ早いぞ。ひとりだけ見つかったんだ、卒業後に水原と接点のあったやつが』
「えっ!」
近くを歩いていた看護師さんが、声のボリュームを諫めるようにこちらを見た。
わたしは肩を丸めて謝るジェスチャーをしながら、口元を手で覆う。