それでも僕が憶えているから
「本当ですか?」
『ああ。3年のとき同じクラスだった女で、卒業後に一時期、水原と同じ店で働いてたらしい。
まあ特別仲がよかったわけじゃないらしいけど、何か手掛かりになるかもしんねえ。会ってみるか?』
「ぜひ。お願いします」
『了解。あんたの電話番号をそいつに教えておく。近いうちに連絡があると思うから、あとはそっちで勝手にやってくれ』
「川口先生」
『ん?』
「本当にありがとうございます。あかの他人のわたしたちに、こんな親切にしていただいて……」
噛みしめるようにお礼を伝えると、川口先生が豪快に笑った。
『いいって、いいって。俺の方も水原の息子に会えたおかげで、初恋にケリが着けられたしな』
「えっ?」
それって、まさか。
意外なカミングアウトに驚くわたしに、川口先生がおちゃめな口調でささやいた。
『あの坊主には内緒な』
たぶん今、電話の向こうでは人差し指を立てているんだろう。
ついでにウインクなんかもしていそうな声色だ。