それでも僕が憶えているから
ホタルは見るからに嫌そうな顔をして、「なんで僕が」とぼやく。
その反応も予想通りだったから、負けじと言い返した。
「あんたがここに存在してる理由が、蒼ちゃんの父親探しだけなんてもったいないじゃん。せっかくだから楽しいこともしようよ」
「別に僕は――」
「やってみたいこと、ないの?」
まっすぐ見つめて尋ねると、ホタルの瞳が揺れた。
視線がふいっと外れて下を向く。
「……そんなの、わからない」
ふてくされた子どものように、頑なで、けれどどこか寂しそうな顔。
窓枠にかけた彼の手の近くに、わたしは自分の手を置いた。
「じゃあ、行こうよ。ホタル」
「………」
「一緒に夏祭りに行こう」
あなたが今までやれなかったこと、今、一緒にやろう。