それでも僕が憶えているから
ひときわ目立つピンクの浴衣が、人波を縫って駆け寄ってくる。
夏休みに入ってから会っていなかった、千歳だった。
「久しぶりー! 真緒も来てたんだ」
「うわ、久しぶりー。浴衣かわいいね」
「ありがとうー」
久々に会って盛り上がるわたしたちに、甚平を着た男の子が近づいてきた。
千歳と一緒に来たらしい彼は、照れくさそうに肩をすくめながら「よう」とわたしに挨拶をする。
「え、大和!?」
学校での姿とのギャップで一瞬わからなかったけど、そこにいたのは正真正銘、水泳部の伊東大和だった。
前々から彼が千歳に想いを寄せていることは知っていたけど、花火デートに来るような仲ではなかったはずだ。
「ちょっと待って、もしかしてふたりって」
「違う! まだそんなんじゃねえよ!」
顔を赤くして必死に言い返すものの、いまいち否定になっていない大和。
わたしはにやけそうになる頬の内側を噛みながら、千歳に目配せをする。
彼女は照れ笑いをして、それから前方に視線をやった。
「真緒は、蒼ちゃんと?」
わたしと大和の視線も同じ方を向いた。
少し離れた場所で、ホタルが背中を向けつつも立ち止まって待ってくれていた。