それでも僕が憶えているから

ひときわ目立つピンクの浴衣が、人波を縫って駆け寄ってくる。
夏休みに入ってから会っていなかった、千歳だった。


「久しぶりー! 真緒も来てたんだ」

「うわ、久しぶりー。浴衣かわいいね」

「ありがとうー」


久々に会って盛り上がるわたしたちに、甚平を着た男の子が近づいてきた。

千歳と一緒に来たらしい彼は、照れくさそうに肩をすくめながら「よう」とわたしに挨拶をする。


「え、大和!?」


学校での姿とのギャップで一瞬わからなかったけど、そこにいたのは正真正銘、水泳部の伊東大和だった。

前々から彼が千歳に想いを寄せていることは知っていたけど、花火デートに来るような仲ではなかったはずだ。


「ちょっと待って、もしかしてふたりって」

「違う! まだそんなんじゃねえよ!」


顔を赤くして必死に言い返すものの、いまいち否定になっていない大和。

わたしはにやけそうになる頬の内側を噛みながら、千歳に目配せをする。

彼女は照れ笑いをして、それから前方に視線をやった。


「真緒は、蒼ちゃんと?」


わたしと大和の視線も同じ方を向いた。

少し離れた場所で、ホタルが背中を向けつつも立ち止まって待ってくれていた。
< 172 / 359 >

この作品をシェア

pagetop