それでも僕が憶えているから

ショックが大きすぎて記憶が混乱しているんだろう、と病院の関係者は言っていた。

警察の人も無理に聞き出そうとはしなかった。

……まさか記憶を失ったことに、あんな真実が隠れていたなんて、俺自身ですら気づいていなかったんだ。



いわく付きの遺児となった俺に対し、親戚がさじを投げてくれたのはある意味ラッキーだったと思う。

おかげで俺は地獄のような親戚の家を出て、施設で暮らせるようになったのだから。


そうして月日が経ち、俺は8歳のときに花江夫妻――つまり今の両親の養子になった。

子宝に恵まれなかった花江夫妻は、俺を実の子同然に可愛がってくれた。

休日の遊園地や、養母が作ってくれるお菓子、養父とのキャッチボール。

穏やかな日々の中、俺は少しずつ新しい両親に懐いていった。


けれど、幼い心に負った傷はそう簡単には癒えなかった。

俺の様子がおかしいことに家族が気づいたのは、それからすぐのことだ。

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