それでも僕が憶えているから

『蒼、さっき誰と話していたの?』


ある日、わがままな交代人格のモモをあやしていた俺に、養母が不思議そうな顔をして尋ねた。

はたから見れば俺がひとりでしゃべっているだけだったから。


『モモだよ。昨日お母さんが作ってくれたプリンを、僕が食べたから怒っちゃったんだ』

『モモ? お友達?』

『うん。まあ、そんな感じ』


当たり前のように答えた俺に、養母は子ども特有のひとり遊びだと思ったらしく、それ以上は問い詰めてこなかった。

当時は穏やかな家庭環境に恵まれたおかげか、交代人格が表に出てくることはほとんどなくなっていた。

たまに頭の中で話しかけられて会話するくらいだったから、周囲の目にはそれほどおかしく映っていなかっただろう。


ところが、そんな日常が一変する出来事が起きたんだ。
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