それでも僕が憶えているから

彼の名前は花江 蒼(はなえ・そう)くん。
東京の高校から3ヶ月前に転校してきた男の子。

クラスが別だからわたしも千歳もまだ話したことはないけれど、いつも笑顔を絶やさない彼は、すでに学年中の人気者になっている。


「そういえば真緒、知ってた?」


わたしの机に両手をついた千歳が、ずいっと上半身を乗り出して言った。


「花江くんって東京の学校では将来有望な水泳選手だったんだって。なのに今は帰宅部なんだよ。もったいないよね」


千歳って、どこからこんな情報を入手するんだろう。校内のイケメン男子のデータはほぼ網羅しているし、その情熱には毎度関心させられる。

わたしは「そうなんだ」と適当な返事をしながら、花江くんの姿を横目でさりげなく観察した。
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