それでも僕が憶えているから

小学2年生の夏。水泳の授業のとき、俺はプールサイドで突然暴れだして同級生にケガを負わせてしまった、らしい。

“らしい”というのは、その記憶がまったくないからだ。

気づいたときには、額から血を流して大泣きする同級生や、血相を変えて走り回る教師たちの光景があった。


もしかしたらモモが癇癪を起こしたのかもしれない。俺はとっさにそう思った。

もしくはミノルか、フブキの仕業かもしれない。そうとも思った。


けれど、いや違う、とすぐに思い直した。

だってあの3人の性格からして他人を攻撃することはないし、何より、彼らの行動はいつも俺の目から見えていたからだ。

じゃあ、誰が?
いったい誰が、こんなことをしたんだ? 

みんなは「蒼くんがやった」と言うけれど、まったく記憶がない――。

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