それでも僕が憶えているから
『ホタルは最後に来たんだ。だから蒼も知らないと思う。俺たちともあまり話したがらないし、いつもひとりでいるんだ』
『そうか。でもフブキくんは仲良くしたいんだね』
『うん。だってみんなで力を合わせた方がいいでしょ?』
面倒見のいいフブキは、交代人格同士のコミュニケーションがうまくいくよう気を配っていたんだろう。
先生が『そうだね』と微笑み、質問を続けた。
『じゃあ、ホタルがプールで突然暴れた理由は知ってる?』
『たぶん……水』
『水?』
『ホタルは同級生を傷つけようと思って暴れたわけじゃないんだ。ただ、水が大嫌いだからパニックになったんだよ。昔、海で溺れたせいで……』
先生と母が、目を見開いた。俺も鼓動が速くなり、息をのむ。
『詳しいことはわからないけど、女の人に手を引っ張られて海に落ちたんだって。ホタルはそのとき死にそうになって……』