それでも僕が憶えているから
それは高校1年の終わり頃だ。
養父の転勤で春に引っ越すことが決まり、俺たち家族は準備に追われる日々を送っていた。
たまたま両親が留守で、ひとりで荷造りをしていた日。
ガムテープを切らした俺は、スペアを探しに両親の部屋に入り、そこで一通の手紙を見つけたんだ。
宛名のない古い手紙。
差出人の名前は、水原香澄――数年前に死んだ実の母だった。
おそらく遺品として施設の人が預かっていたのを、今の両親が受け取ったんだろう。
でも、そんなものがあったなんて俺はこのときまで知りもしなかった。
その場で便せんを広げて読んだ。
一行目の文章は、こうだった。
【この手紙をあなたに出す気はありませんが、私の人生の最後に、ありのままの気持ちを書き残すことを許してください】