それでも僕が憶えているから

相手の名前は、手紙の中に出てこなかったけれど。俺の実の父親に向けて書いた手紙だということは、すぐにわかった。

“人生の最後に”ということは、おそらく母は自殺する直前に書いたんだろう。

すでに父は他界しているはずだから、天国の父に向けて。

そう思いながら、俺は続きを読んだ。


だけどそこに記されていたのは、想像すらしていなかった事実だった。



【あなたに出逢い恋をして、22歳であなたの子どもを産んだとき、私はとても幸せでした。

たとえすぐには入籍できなくても、あなたはたくさんの愛情を注いでくれましたね。

そして、いつか必ず周囲を説得して、家族になろうと約束してくれた。

私はそれだけを信じて、蒼とふたりであなたを待っていたんです。

なのにまさか、あんなにもあっさり捨てられるだなんて……。
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