それでも僕が憶えているから

立派な家系に生まれ育ったあなたに比べ、私は身寄りもなく貧しいただの女。

こんな私と結婚したところで、確かにメリットは何ひとつなかったのでしょう。


あなたがお見合いしたという、申し分ない家柄のお嬢様。

しかもその人のお腹に新しい命が宿ったとなれば、私の存在なんか邪魔でしかないですよね。

ましてや、蒼という隠し子が周囲に知れたら、すべてが台無しになってしまう。


だからあなたは私たちを切り捨てた。

会って話し合うことすらせず、部下を使って手切れ金だけをよこして……。


ねえ、あなたにとって私とは何だったのですか?

そして、蒼は何のために生まれてきたのですか?


あなたに捨てられてから私は、たとえ女手ひとつでも蒼を幸せにしてあげようと思いました。

けれど焦れば焦るほど、私の体はアリ地獄に飲みこまれていきました。

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