それでも僕が憶えているから
もうこれ以上、がんばることはできません。弱い自分を責め続けることにも疲れました。
私以外の女性が、あなたの妻として愛されている。
蒼以外の子どもが、あなたの子として希望あふれる未来を持っている。
こんな理不尽な世界に、もう、さようならを言わせてください】
手紙を持つ俺の手が震えていた。
目の前がどす黒い血の色に染まっていくようだった。
……俺の父は、死んだわけじゃなかったんだ。
今もどこかで生きていて、のうのうと家庭を築いている。
父にあっさり捨てられた母は、自ら命を絶ったというのに。
『じゃあ、何のために……』
俺は声を絞り出しながら、手紙を握りつぶした。
『何のために、俺は……っ』