それでも僕が憶えているから
Chapter.4 ふたつの願い
*
《1》
毎朝、目が覚めるたびに無意識に願っている。
今日という日が幸せでありますように。
蒼ちゃんが、そしてホタルが、どうか幸せでありますように――と。
「何、本当か!?」
キッチンで朝食のパンを焼いていたら、廊下の方でおじいちゃんが叫んだ。
誰かと電話をしているのだろう。相手の声はもちろん聞こえないけど、おじいちゃんの声色だけでいいことがあったのだとわかる。
「ああ、アポはお前に任せる。でかしたぞ、乾!」
また乾さんか。わたしはうんざりした気分で冷蔵庫からバターを取り出した。
最近、おじいちゃんの会社は首都圏進出を狙っているらしく、その足掛かりとなるコネ作りに乾さんが貢献しているらしい。きっとお得意のおべんちゃらを存分に駆使しているのだろう。
わたしは食パンにバターを塗りながら、壁のカレンダーに目をやった。
……夏祭りの日から5日。
挫いた足の痛みは、もうすっかりひいた。
明日はホタルと一緒に、田尻さんという女性に会いに行くことになっている。