それでも僕が憶えているから
どうしようもなく心が苦しくなったとき、こっそり家を抜け出して外の空気を吸うのが、わたしのひそかな習慣だった。
それはだいたいいつも夜で、時間にして30分程度。場所も自宅のごく周辺と決まっている。
だけど今夜は、少し違った。
衝動的に自転車に飛び乗って、一時間以上ノンストップでペダルを踏み続けた。
たどり着いたのは、隣町の寂れた小さな公園。
自転車を投げ捨てるように降りたわたしは、ぽつんと設置されている手洗い場で頭から水を浴びた。
そしてそのまま顔を上に向け、からからの喉に水を流しこむ。
生ぬるくて鉄臭い水に、思わず顔をしかめた。
「まずっ……」
水を止めて、ゲホゲホと咳き込む無様なわたし。