それでも僕が憶えているから

頭を壁にぶつけたような衝撃が走った。視界が揺れて、めまいに襲われる。


「どうして……」


これ以上ない愚問を口にせずにいられなかったのは、今聞いている話が、何かの間違いであってほしかったから。

けれどそんな愚かな希望は、当然のごとく消し去られる。


「ホタルは俺の憎しみから生まれた人格なんだ。彼を残したまま父親に会えば、何をしてしまうかわからない。
でもそんなのは間違ってる。この体は俺のものだ。俺の意志は、俺自身のものじゃなきゃいけないんだ」


徐々に語気が強くなり、誰かに宣言するように蒼ちゃんが言った。


「人を傷つける左手は、もういらない」


あまりにも、正しくて。
進むべき道が今、彼の目にはハッキリと見えていて。

なのに“がんばって”の一言すら言えないわたしは、なんて身勝手な人間なのだろう。


「ごめん……わたし、ひとりで帰るね」


ふらつく足でどうにか立ち上がり、踵を返す。次の瞬間。


「待って、真緒」


その言葉通りわたしが動きを止めたのは、後ろから強く抱きしめられたからだった。


「俺を選んでほしい」


ぼんやりとした視界のはしで、蒼ちゃんの右手のブレスレットが、静かに光った。



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