それでも僕が憶えているから
*
《2》
地上を電車が走り抜けていく。
その音と振動がコンクリートの天井越しに伝わり、やがて遠ざかると、地下通路は廃墟のように静まり返った。
鼓膜に直接響く胸の鼓動。それはわたしのものなのか、彼のものなのか。
『俺を選んでほしい』
さっきの言葉も、この抱擁も……何が起きているのかわからない。
呆然と立ち尽くしていると、後ろから抱きしめる蒼ちゃんの両腕に力がこもった。
指が腕に食いこむほど強く。だけど、けっして痛くはないやさしさで。
「……俺が前に進もうって決意できたのは、真緒に出逢ったからなんだ。秘密を知っても真緒は離れずにいてくれた。だから俺も、もう現実から逃げたくない。真緒の前で胸を張って生きられる自分になりたいから」
今、自らの足で立ち上がろうとし始めた蒼ちゃんを、きっとわたしは応援してあげるべきなのだろう。
なのに感情がまとまらない。心が全然ついていかない。