それでも僕が憶えているから
「あ、そういえば来週も夏祭りがあるんだって。ヒマだったら行こうよ」
「……行かない」
やっとくれた返事。それがたとえ断わりの一言でも、会話になったことで少し安堵する。
「えー。つれないなあ」
「………」
ホタル。お願い。戻ってきて。
たとえあなたの生まれた理由が憎しみや絶望だったとしても。
この世界で出逢ったものは、けっしてそれだけじゃないはずだ。
「じゃあ映画は? おもしろそうなの、いっぱい上映してるよ?」
「……興味ない」
ホタル。わたしはたくさんのあなたを知っている。
初めてのハンバーグをあんなにおいしそうに食べていた。
おじいちゃんに殴られそうになったわたしを、とっさに庇ってくれた。
人に謝ったことがないと言いながらも、ちゃんと千歳にお金を返しに行った。
夏祭りでは大和たちに囲まれて、普通の男の子みたいな顔だった。
いつも偉そうな態度のくせに、わたしに危険が迫ったときは必ず盾になって守ってくれた。