それでも僕が憶えているから

もしあなたが本当に復讐のためだけに存在しているのなら、こんなにも人間らしい顔を持っているはずがない。そうでしょう?


「あ、じゃあまたハンバーグ作ってあげるよ。ねっ」

「いらないから、もう放っといてくれ」


頑なな声に阻まれて、わたしは貼りついた笑顔のまま固まった。


「ホタル……」


潮の匂いを含んだ風が、Tシャツのすそをぱたぱたとはためかせる。

ホタルの黒い髪も揺れて、それはもう手を伸ばせば触れられる距離だ。

だけど、遠い。とてつもなく遠い。ついこないだまでは、あんなにも近くに感じられたのに。


「わ……わがままだなあ。また作れって言ってたくせに」


わたしは無理やり笑って、おどけたように言い返す。


「あんた、ハンバーグ大好きでしょ。だから――」

「だから嫌なんだっ」


突然、振り返ったホタルがわたしの腕をつかんだ。力任せに引き寄せられた体が、彼の胸とぶつかり合う。

次の瞬間、向きを変えてフェンスに背中を押しつけられた。
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