それでも僕が憶えているから

「よけいなことばっかりだ。温かい食べ物なんて、僕には必要なかった。夏祭りもいらない。思い出なんかいらない。何もいらなかったのに、お前が……っ」


いつのまにかわたしは泣いていた。
だけどこれはホタルの涙でもある、そう思った。

いらないと何度も言いながら、誰よりもホタルは求めている。復讐とは対極にある、穏やかでありふれた日常を。

わたしはしゃくり上げながら口元を手で覆った。こみ上げてくる言葉を、嗚咽の下に抑えこんだ。


――好き。ホタルが好き。

お願いだから、このままわたしと一緒にいて。

復讐なんか捨てて、ここにいて……。


もしもそれが言えたなら、どれほど心が楽になっただろう。

だけどもうわかっていた。そんな言葉は一時の救いにすらならないことを。

ホタルは、蒼ちゃんが生み出した交代人格だ。

蜃気楼のように実体のない、本当はここにいるはずのない人。いてはいけない人……。
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