それでも僕が憶えているから

周囲の温度が、一気に下がった気がした。

でもそれはわたしだけだったらしく、おじいちゃんは相変わらず上機嫌なまま団扇で顔を扇いでいる。


「将来は会社の経営も乾に任せようと思ってるんだ。あいつはなかなか骨のある男だからな。なにしろ今回の首都圏進出を推し進めた立役者なんだから」

「で、でもっ……お母さんはそれでいいの?」


いくら乾さんが事業に貢献しているとはいえ、家には関係のないこと。今のお母さんの表情を見れば、好き同士で再婚するわけじゃないことは明らかだ。

どうして、ここまでおじいちゃんの言いなりにならなきゃいけないの? そして、わたしの意見はまったく聞いてくれる気はないの?


「お母さん」


思わず引き止めるように、隣のお母さんの膝に手を置いた。だけどお母さんはこちらを見ることすらなく、淀みながらも頑なな口調で答えた。


「この先、真緒の大学進学もあるし……おじいちゃんに迷惑はかけられないから」

「………」

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