それでも僕が憶えているから

お母さんの再婚を告げられた日から2日。

着々と準備を進める大人たちの横で、わたしは息をひそめるように存在感を消して過ごしている。

今週末には顔合わせの食事会、そして来月には入籍。

乾さんは婿養子ではないものの、うちで同居になるらしく、駐車スペースを広げるために今日から庭の工事が始まった。

騒音を聞いていると頭がどうにかなりそうだったわたしは、勉強用具を持って図書館に避難した。

千歳から久しぶりにメッセージが届いたのは、その図書館からの帰り道だった。


「夏休みも終わり……か」


木陰で立ち止まり、スマホに視線を落としながら独り言をもらす。

樹上から響く虫の鳴き声は、アブラ蝉じゃなくツクツクボウシ。空の色も、心なしか夏の終わりを感じさせる薄い青になっている。

2学期が始まったら、蒼ちゃんとも顔を合わせることになるんだよな……。

そんなことを考えながら街路樹の影が並んだ道路を眺めていると、前方からよく知っている顔が歩いてきた。
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