それでも僕が憶えているから

「あれ? 真緒ちゃん!」

「あっ……こんにちは」

「久しぶりだねー」


相変わらず人好きのする笑顔で、こちらに小走りしてきたのは凪さんだった。

最近は蒼ちゃんと顔を合わせないようにしていたから、凪さんと会うのも夏祭り以来だ。


「最近見かけないから、元気なのかなって思ってたんだ。忙しかったの?」


社交辞令というよりは、本当に近況を気にしてくれている様子だったので、わたしは少し思考を巡らせてから答えた。


「実は、母が急に再婚することになって。それでちょっとバタバタしてたんです」

「そうなんだ。おめでとう」

「ありがとうございます」


想定していた受け答えだから、スムーズに笑顔が作れたと思う。

うん、わたし、ちゃんと笑えてるな。それだけでちょっとホッとした。

そういえば、凪さんも仕事のお休みを利用してこの町にいるんだっけ。

ということは東京に戻る日も近いはずだ。
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